固有の情景
2015年05月26日 有馬 啓介
ルーペを用いてこの写真の細部を観察します。制服を着た小さな子どもたちが集団で登下校しています。通りには多くの商店が立ち並び、銀行もあります。
昨年度実施した「ふるさと愛媛学」調査研究普及活動では、地域の皆様への聞き取り調査を基に、昭和30年代から40年代にかけての町並みを復元し、その成果を調査報告書に掲載しました。魚島の篠塚漁港周辺、弓削島の下弓削地区、生名島の生名港周辺及び立石港周辺、岩城島の岩城港周辺を調査対象としました。前述の写真は、現在の弓削総合支所から下弓削地区中央集会所に続く通りを撮影したものです。
現代の町並みは、50年以上前の町並みと比べると、均質化しているような気がします。かつて、地域での生活は、基本的にその土地で完結し、満たされていました。そこには、地域共同体が形成した唯一無二の固有の情景がありました。一方、都市化・均質化・荒廃を免れた一部の町並みは、観光地として活用されている現状があります。
「白砂青松」と「段畑」は、かつての瀬戸内の代表的な景観です。日本人は、この景観に憧憬の念を抱きます。しかし、それらの景観の形成の背景として、製塩業による山の裸地化(花崗岩の浸食)、平地の少ない島の地形等の様々な事実を知る必要があります。大事なことは、先人の知恵と技術を学ぶことです。ノスタルジアから一歩抜け出し、ちょっと昔のことを学んではいかがでしょうか。