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上島の遺跡③ ツバの吐き出し

2017年09月27日 有馬 啓介

津波島(左)と金ヶ崎(右)の間の 「ツバの吐き出し」

 岩城島の南、津波島と伯方島の金ヶ崎との間の伯方瀬戸は、通称「ツバ(津波)の吐き出し」と呼ばれ、その海底から、底引き網漁などの漁網にかかって、ナウマンゾウやヤベオオツノジカの化石が水揚げされることで有名な場所です。これらの大型哺乳類が生息していた時代の瀬戸内海は、どのような環境だったのでしょうか。

 ナウマンゾウとヤベオオツノジカは、地質時代の年代区分で中・後期更新世と呼ばれる時代に日本列島に生息していました。後期更新世のほぼ後半にあたる今から約7万年から1万年前にかけて、地球は最終氷期であるヴュルム氷期を迎えました。地球上の水が雪や氷として陸地に蓄積し、最寒冷期の約2万年前には、海面は現在よりも130mほど低かったとされています。その結果、紀伊水道や豊後水道を含めて瀬戸内海は陸地化しました。備讃瀬戸付近を分水嶺に大きな川が東西に流れ、紀伊水道や豊後水道を通って太平洋に注いでいました。中国山地と四国山地の間にある瀬戸内海は、広大な平原盆地となったのです。

 環境省の調査によると、瀬戸内海の現在 の平均水深は38.0mです。瀬戸内海は、灘と呼ばれる海域によって構成され、瀬戸内海が陸地であった時代、上島諸島の周辺に広がる燧灘や備後灘には、広大な平原が広がっていました。一方、海峡、水道、瀬戸などの海の幅が狭くなった場所は、海底がその周辺よりも深くなっていることが多く、「ツバの吐き出し」の現在の水深は、最も深い箇所で100m近くあります。それを挟む両岸の津波島と伯方島の金ヶ崎では、これまで後期更新世終末にあたる後期旧石器時代のナイフ形石器をはじめとした多くの 石器が発見されています。

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