上島の遺跡⑱ 遺跡と未来
2020年04月01日 有馬 啓介
切石山(福山市内海町横島)から望む島々(手前:百貫島 後方左:高井神島 後方右:豊島)
昭和30年頃、オート三輪にいっぱいの荷物を積んで、里山が広がる田舎に2人の姉妹とその父親が引っ越してきました。姉は小学校に通っていますが、幼い妹は家で父親と過ごしています。「お化け屋敷」に住むことが子どもの頃からの夢であった父親は、遊んでいる子どもを気にしながら難しそうな書籍で溢れた部屋で執筆活動をしています。父親は、時々大学で考古学を教えているようです。これは、日本を代表するアニメのシーンです。私が学生の頃、友人がこの父親のような父親になりたいと言っていたことを最近になって思い出しました。
リチウムイオン電池を開発した功績で令和元年12月にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、学生時代に考古学研究会に所属し、遺跡の調査に熱中した横顔を持っています。そして、開発事業による消滅の危機にあった遺跡の保存活動にも取り組まれたようです。
新聞やテレビにも取り上げられ、華やかに見える遺跡の調査ですが、実のところ、その解明には地味で地道な不断の努力が必要とされます。吉野彰氏が実験と遺跡の発掘調査の手法に共通する点が多いことを指摘されていました。また、歴史の過去から現代に至るまでの流れを読み解くことで未来が見えてくるとも語られています。遺跡とは、「地球上に残る過去の人間活動の痕跡」とされています。遺跡の調査は人類史を解明するためのものですが、その成果は未来に生きる私たちの何らかの道標となるでしょう。
間もなく生名島と岩城島を繋ぐ岩城橋が完成します。現代は車社会となり、道路が生活に欠かせないものとなっていますが、かつては海が人・モノ・文化を運ぶ大動脈でした。遺跡は、そのことを雄弁に語っています。
(おわり)