上島Stories

Kamijima stories

豊潤の内海と漁業

2016年02月25日 有馬 啓介


デビラ干し(昭和41年) 魚島村役場『島の肖像 魚島村制施行108周年記念写真集』平成16年 から

 弓削島の磯で育ったヒジキの歯応えを忘れることができず、寒くなったある日の夕方にヒジキを採りに海岸へ出かけました。潮が引き、夢中になって岩に張り付いたヒジキを摘みました。子どもが30分ほど摘むと、用意していたバケツはヒジキで一杯になりました。身近な海は、その豊かさを教えてくれました。

 瀬戸内海は、本州・九州・四国に囲まれた日本最大の内海です。紀伊水道と豊後水道は、瀬戸内海と太平洋を繋ぎます。また、瀬戸内海から関門海峡を抜けると東シナ海に至ります。このように外海との海水の流出入が限られている閉鎖性海域である瀬戸内海ですが、昔から漁業資源の宝庫でした。単位面積当たりの漁獲量は、世界の海の中でも屈指のものです。そこに生きる人々はその豊潤な恵みを享受してきました。

 多島海である瀬戸内海の複雑な地形は、多くの海洋生物を育んできました。瀬戸内海は、灘と呼ばれる広い海と瀬戸と呼ばれる海峡によって構成され、干満差が大きいことで知られています。強い潮流が活発な食物連鎖を進め、豊かな漁場を生んでいると言われています。

 魚島には、明治時代の鯛網漁の活況を描いた「吉田磯之漁景図」が伝わり、吉田磯には大漁記念碑が立てられました。外海から産卵のために、紀伊水道や豊後水道を通って瀬戸内海に入って来る鯛が、魚島周辺に集中し、八十八夜前後にとれる真鯛は桜鯛と呼ばれました。

 近年、店頭には安価な養殖真鯛が並び、天然真鯛の水揚げ量を凌駕しています。真鯛漁に限らず、「とる漁業」から「つくる漁業」へと漁業のかたちも変化しています。しかし、海洋資源豊かな瀬戸内海を継承する私たちの使命に変わりはありません。

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